京都御所の西側、寺町通を南下して、丸太町通に出て桑原町。京都中京区桑原町には人が住んでおらず、その住所が指し示すのは道路のみ。このことと、菅原道真公の怨霊としての歴史的存在、雷除けのおまじない「くわばら、くわばら」の語源のひとつとされることなどがあいまって、京都のミステリースポットと語られることがある。
桑原町に人が住んでいないのは、南に位置する区画すべてが京都簡易裁判所となっているため、結果的には人が住んでいない住所となったと個人的には解釈(妄想)している。桑原町の西隣、鍵屋町にある丸太通に面した場所の建物には、「丸太町通堺町東入鍵屋町」の住所が当てられ、その区画の南側の建物には、「竹屋町通り柳馬場西入ル和久屋町」の住所が当てられている。ここから「町名」は区画に対する名称ではなく、通りを分かつ名称で、「通り名+町名」が区画に存在する建物への住所の付け方と推測できる。区画全体に位置する京都簡易裁判所は、南側の通りの「竹屋町通」を分ける「菊屋町」を使った住所となったため、結果的には、「桑原町」の住所を当てられた建物が存在しなくなったと解釈できる。「ミステリー」なのは「桑原町」に人が住んでいないことよりも、京都の住所の付け方の分かりにくさや、町名は人の住む区画に対するものという思い込みなのかもしれない。
ただ、京都簡易裁判所の建物は区画内ではやや南寄りにあり、「中京区菊屋町(竹屋町通)」「中京区菊屋町」という住所が当てられたということが想像できる一方で、「桑原町(丸太通)」「中京区桑原町」という住所が当てられなかったのは、祟りを恐れての選択という解釈もできるが…
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「くわばら、くわばら」は、もともとは雷除けのおまじない、現在では(あまり使われてはいないかもしれないが)災難や災厄を避けるおまじないで、さまざまな由来が語られている。大きくは、菅原道真公と関連した由来と井戸に落ちた雷様に由来を求める由来の二つに分けられるが、いずれも「ここは桑原の地です」ということを示すことがおまじないに転じたと考えられる。代表的な由来は以下のとおり。
- 菅原道真公薨去の後、京を激しい雷が襲った時も、菅原道真の屋敷のあった桑原町には、雷は落ちなかったとされることから。(ただし、道真公の屋敷が京都市の桑原町にあったことは裏付けられてない)
- 菅原家の領地に「桑原」の地名を持つ領地(あるいは「桑原荘」と呼ばれる屋敷)があったことから(史料では裏付けられてないが、越前や筑紫などの説)
- 寺の境内の井戸に落ちた雷様の子どもを、和尚が助け出す際、桑原の地には雷を落とさないように約束させた(兵庫県三田市桑原)
- おばあさんが井戸端で洗濯をしていると、雷様が空から井戸の中に落ちた。おばあさんは空かさず井戸にたらいでフタをして、雷を落とさないように約束させた。(大阪府和泉市桑原町)
- 激しい雷鳴の後、寺が稲光に包まれた。村人が寺に急いで向かうと、雷様が井戸に落っこちていて、怖くなった村人は井戸にフタをした。出してくださいと懇願する雷様に、雷を落とさないように約束させた。(大阪府和泉市桑原町)
- 雲を踏み外して畑の井戸に落ちた雷様を、農夫が見つけ井戸にフタをして閉じ込めた。雷様は「雷除け」を教えることと引き換えに、解放してもらう。「雷たちは、クワの木が嫌い。家にクワを植えて、クワバラ、クワバラ、クワバラと3回唱えれば、そこに雷はおちません」。(長野県千曲市桑原)
- 「くわばら」のおまじないには通じないが、大阪市西区鳳の長承寺には、雷様を住職が捕まえて井戸に押しこみ、雷を落とさないこと、日照りの時に雨を降らせることを約束させて解放したという話が残る。
- その他、サンスクリット語で「イヤなこと」「忌むべきこと」を表す「クワバラン」の音転からという説もある。
所在地:京都府京都市中京区桑原町